一年生、春の息吹
赤ちゃんがはじめて立ち上がる瞬間、ぐらぐらしながらも一歩一歩踏み出す瞬間は、なんと美しいものでしょうか。その笑顔は喜びに満ち、なんと輝いていることでしょう。“私はここにいます。”“私は自分のあしで世界に立っています。”と。
人は生まれて一年ほどで、一般的にハイハイからまっすぐ自分の脚で立ち、歩き始めます。もちろん遅い子もいれば、早い子もいます。お兄ちゃんを追いかけるのもハイハイで、「まって~まって~」。今までは四つん這いの姿勢で、その視界でしか生きられなかったし、大地にとても近い場所で世界を探求してきました。そして立ち上がったその時、さらに広い世界が広がります。無意識の中で、大地からまっすぐ上に流れる「自分を支える力」を脚から背骨そして体全体で受けます。それと同時に「天から頭を通り大地にまっすぐに下に流れる力」を受けます。このときの赤ちゃんの“わたしはここにいます”と言わんばかりの姿は、なんと気持ちよさそうでしょうか。見ている周りのものにも、生命の息吹が伝わる喜びの瞬間ですよね。
この春、6人の子どもたちがいずみの学校に入学しました。雪が残る寒空の下でしたが、まさに春の息吹が感じられるような入学式でした。大きな鉄筋の小学校の中、在校生のお兄さん、お姉さんたちが勢ぞろいで、おうちの方たちやたくさんの先生たちが見守る式場に、ドキドキしながら入っていく6人の子どもたち。かなり緊張気味の子どもたちもいましたが、新入生紹介で担任が目の前に立ち、自分の名前が呼ばれる番になると、どの子の瞳からも「いいよ、先生」という合図が伝わってきました。そして自分の名前を呼ばれたそのとき、「はい!!」(私は一年生になります。わたしはこの学校にいます)という声と、すっとまっすぐ立ち上がる姿は、生命の息吹を感じさせてくれる、なんとも輝かしいものでした。
こうして6人の一年生は新しい人生の扉を開きました。始めのメインレッスンでは、直線と曲線について数週間学びました。
第一週目は「まっすぐな線」と「丸みのある線」が 教室のいたるところにあることに気づき、世界のもの全てが直線と曲線でできていることを、目で見たり手で触ったり、いろいろな形の線の上を動いたりして確認していきました。今まで夢の中でだだよっていた幼児が、初めて自分の意識(気づき)を通して物事を認識し始めました。まさに赤ちゃんがよちよちと歩き始めるように、この子どもたちは、いま、意識を通して世界を歩き始め、夢から覚めて外界に一歩踏み出した、大きな瞬間のように思えました。
そうして、自分の席に座り、新しい大きなノートをもらい、クレヨンが日ごとに増えて、「うれしい!」が毎日毎日一つずつ増えていくような3週間でした。おうちの人たちから丁寧に用意してもらったクレヨン入れに、ピカピカのクレヨンを大切に大切にしまう様子は、とても印象的でした。
ゴールデンウィーク前の最後の日には、虹を描きました。まず私が、お話の中で「男の子の前に、ぱあーっと七色の橋がかかりました」というと「あっ 虹だ!」「虹だ!」と子どもたち。そして黒板に私から紫の橋を架ける(描く)と、6人の子どもたちに黒板の前にでて、一人一色ずつ青から赤までの橋を重ねてもらいました。一人一人の手で、一色一色の橋を重ね一つの大きい虹の橋になっていくところをわくわくしながら静かに見ている子どもたち。黒板にかかった大きな虹が出来た時はとても満足そうでした。そして、自分のノートにもワクワクしながらおおきな虹を描いていました。
ゴールデンウィークの後は、渦巻き、交わった直線など、直線や曲線の発展形を勉強しました。形に関する感覚を高め、描く練習をすることは、これからの文字の良い導入になります。
そんな時、青空教室で林の中を歩いていると、こごみを発見!!そしてその中に教室で描いた蛇さんの模様(渦巻き)があることに子どもたちはとても驚いていました。あっここにも!あっここにも!教室の中で勉強したことが、実は今まで知っていたものの中にあったことに、うれしさと驚きを感じていたようです。タンポポの茎を縦に裂いて水につけ、渦巻きの形を作り学校に持ってきてみんなに見せてくれた子、貝殻を取ってきて、その中の渦巻きを見せてくれた子もいました。早くお兄ちゃんのように文字を勉強したいと胸膨らませている子どもたちですが、まずは自分たちが勉強していることが、世界の中にたくさんあることにも充実感を感じているようでした。
また、つい先日の青空教室では、砂場の横で子どもたちみんなが、なかよくレストランごっこをする姿が見えました。お料理する人、看板を立てる人、材料集め、箸作り、お皿集め、葉っぱのお金あつめ、銀行、お客さん、などなど、子どもたちの発想と協力しあう心のハーモニーが、子どもたちから自然にあふれ出てきました。「…ちゃん、…とってきて!!」「は~い」。こうやって、楽しいことを力をあわせてやるところから、つながりが深まり、ゆっくりゆっくり相手を思う友情が育っていくのだろうと頼もしく思えました。
また外側は緑色で中は黄色いタンポポのつぼみがかぼちゃとか、つくしの頭だけ集めてお豆とか、砂場の大きい砂は荒塩とか、ねばりが出る葉を揉んでねばねばサラダ、浅葱のサラダ、タンポポコーヒー、パプリカ、スパゲティーなどなど、本物そっくりのものまであって、自然の素材からいろいろなものをうみ出す子どもたちの想像力に担任は脱帽でした。
そして「採っても採ってもなくならない自然の恵みに包まれて遊べる経験は、この時期の子どもに本当に大切だなあ」と改めて感じました。いま「無限にもらい包まれる経験」を無意識にもたっぷりと体験することで、自分から周りに流していく無限なる温かさも育まれるような気がします。担任はもっぱらお客としてたくさんご馳走になりました!!ごちそうさま!
さて、このようにして入学からあっという間に6週間がたちました。一年生は、まだまだ子どもの無意識に働きかける時期。これからの学びという種を蒔き育てるための、ゆたかな土づくりの時期を温かく支えていきたいと思います。
いずみの学校のコミュニティーの皆さま、いつも温かく見守っていただき、多面にわたりご協力ありがとうございます。今後共よろしくお願いします。(吉野)
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by bridge-since2008
| 2013-05-31 10:08
| 教師より